トウブ放送局

ちゅーけんと言います。ただただ思いついたことを書いていきます

徹夜カラオケで死にかける話

それは仲間たちと一緒に昼食をとっているときのことだった。

午後からの作業の準備を片手間に進めつつ、憂鬱な気分に沈んでいると、友人が声をかけてきた。

「作業が全部終わる木曜日に、カラオケに行かないか?」

カラオケ・・・ここに入ってからの友人とは行ったことがない。木曜は四時ごろには帰れるから、かなり夜遅くまでできるはずだ。

何時までやる予定か?と聞いたところ彼は

「そりゃ徹夜さ」と答えた。

徹夜・・・。高校時代に電話しながら夜を明かしたことはあるが、外出先で夜通し遊ぶ、なんてことはしたことがない。

せっかくまだまだ若い体を持っているわけだし、遊べるうちに遊んでしまおう。何事も経験だ。

「ぜひ行かせてくれ」

私はそう答えた。今思えば、午後からのつらい作業を忘れたかったのかもしれない。

ただ、徹夜でのカラオケは、現実逃避先とするにはあまりにも過酷であった。

 

 まずは今回カラオケに行くメンバーの紹介。(全員仮名)

 

・ユワ君

カラオケに誘ってきた張本人で、バンドのボーカルをしている。イケメン

ラッドウィンプスが好きで、歌がうまいと有名。たまに私に高音の出し方をレクチャーしてくれる。

 

・富士くん

特撮好きその一。

物まねが得意で、ちょくちょく披露してくれるが少しばかりチョイスが古い。

僕と同じく、このメンツでカラオケに行くのは初めてだそうだ。

 

・牧島くん

ユワ君のバンドのベース。

お調子者だが、海外に行ったときに現地の方々とガンガン会話していたり、ダイビングのインストラクター免許がもう少しで取れるらしかったりする、なかなか侮れない男。

 

・ザトウくん

ユワ君と並ぶイケメン。

別にエピソードがあるわけではないが、なんとなく天然っぽい雰囲気が漂っている。

欅坂や乃木坂に詳しい。

 

雄大くん

 特撮好きその2。特撮ネタなら大体返してくれる。

特撮関係の歌だけで何時間でもカラオケできると豪語していた。

 

この個性豊かな五人と、私の六人でのカラオケである。

 

この人たちはどうやら私と違ってバイタリティの塊であるらしく、「カラオケは飯が高いから夕飯食ってから行きたい」→「時間があるからボウリングでもいこう」という考えを何の躊躇もなく発言し、そして実行してしまった。これから徹夜するのに

ボウリングではユワ君が「前回来た時すげえ調子よかったんだわ」と豪語したのちに好スコアを叩き出し、調子に乗ったのか僕らを二チームに分けて、「2、3ゲームの合計が少なかったチーム、買った方に何かおごりな!」と宣言した。

しかしチームが悪く、ボウリング素人の雄大くんと運動全般を苦手とする私が足を引っ張り、最終的にはユワ君も失速して大敗してしまった。おごりは何となくうやむやになったが、やはり悔しい。

 

三ゲームが終わってもまだ少し時間があったので、ゲームコーナーでエアホッケーやキッキングマシーン(パンチングマシーンの蹴り版ね)に興じるなどして時間をつぶした。

 

さて、本番だ。王将で中華を食べたのちに、近場のカラオケにさっさと入る。

一番手の富士くんが一発目から90点を出し、その一周で私と雄大くんがさらに90点を出したため、点数がインフレ。「今日のカラオケ魔境だ・・・」とはザトウ君談。

ここで全員の実力と曲のチョイスが判明した。

ユワ君は音域も広くめちゃくちゃ上手いのだが、いかんせん難易度のバカ高い曲を選ぶ傾向があり、点数が振るわない。プライドがあるらしく、私が曇天で90点取った時に「取りやすい曲には流れんぞ・・・」という旨のことを語ってくれた。

雄大くんと富士くんは90点をコンスタントに出していた。富士くんがサザンの物まねで90点取った時は盛り上がりに盛り上がった。ものまねで取れるんかあれ

雄大くんは逸話に偽りなく、特撮曲をチョイスし、そのどれもが高レベルだった。きちんと全員の世代である「特捜戦隊デカレンジャー」をチョイスするのも、マニアのマナーをきちんと守っていて評価が高い。

牧島くんはマキシマムザホルモンをめっちゃ歌っていた。デスボイスに音程があるとは思えないが、彼のデスボイスは全てガイドラインの二つほど下を突き進んでいた。逆に見事である

ザトウくんは単純にカラオケに慣れていないらしく、点数は低めだった。だが他の奴らの癖が強い分、アイドルソングを歌ってくれる彼は清涼剤になっていた。

 

これはいけるかもしれない。

正直徹夜なんてできる気がしなかったが、この面々なら退屈しない。本当に朝まで騒ぎ倒してパーティーピーポーじみたムーブができるのかも・・・。

ある種の確信を得た私は、とにかくテンションを上げることにした。牧島君のホルモンに首を振りまくり、女々しくてを歌って跳ね回り、雄大くんと一緒にウルトラマンオーブのオープニングを熱唱し、ドリンクバーまで歌が響くという伝説を残したりした

 

諦めるな~!前を見ろ~!限界を超えろ~!♪

 

飲み物を取りに行っていたユワ君曰く、「女の子たちが”これウルトラマンの曲だよね”と少し引いた調子で喋ってた。」とのこと。歌詞が聞き取れるレベルで響くってヤバいな。というか、何故ウルトラマンの曲だとわかった?平成ウルトラマンだぞオーブは。

 

あっという間に数時間たち、深夜12時。

ここにきて皆に少しずつ疲れが見え始める。まず真っ先にバテたのは私だった。流石に四時間ぶっ通しという前代未聞の状況に、喉が限界を超えた。前を見すぎるのも考え物である。

そしてユワ君はボウリングの筋肉痛が早くもやってきた。若すぎる・・・

そんな中やたら元気だったのが牧島君で、おもむろに広いスペースを陣取ったかと思うと、照明を落としてミラーボールを起動した。私たちの入ったカラオケにはミラーボールエフェクトがかけられる照明があったのだが、さすがに自らが歌うタイミングでそれを起動する勇気はなかった。そう、彼以外は・・・

 

そんなことは気にしないぜとばかりに、牧島君渾身のマキシマムザホルモンが炸裂する。

首振れぇ!

ユワ君先導のもと、思いっきり首を振った。私はかなり毛量のある人間なので、ヘドバンをすると歌舞伎の連獅子みたいになる。ヘヴィなサウンドに乗せて首を振るのは初めてだったが、なるほどなかなか良いものだ。楽しい。こりゃ首振るわ。

牧島君の歌唱と、ヘドバンによる効果か、かなり眠気を払うことができた。

これはまだまだいける。

 

深夜一時

ここで牧島君がまさかの帰宅。しかしまだ彼が「F」で温めた空気は残っていたので、クールダウンしないように歌唱を続ける。しかしうまくいかない。

原因は皆一様にスタミナ切れしだしたことだ。歌唱後の表示を信じるなら一曲ごとに10キロカロリーは消費しているわけだから、そろそろ晩飯の餃子をペイできるくらいエネルギーを消費していたのである。皆一様に喉の負傷で高音が出なくなった結果、盛り上がる曲を入れられなくなってしまったのだ。

 普段なら原キーに挑戦する曲をオクターブ下で歌ったりしながらだましだましやっていたが、ここで雄大くんが脱落

「無理だ。もう寝る」

彼はそういうと、重い荷物を枕にして就寝。

就寝者が現れると皆も気を使い、大声を出す曲が歌いにくくなる。

ここまでくると全員感受性のドアがぶっ壊れており、ちょっと泣ける曲をチョイスするだけで皆少し目が潤む。

ユワ君曰く、「今ひろしの回想とか見たらボロ泣きする

眠気覚ましになるものがなくなり、限界が見えてくる。

 

深夜三時

脱落者が現れ、参加者全員が眠気との戦いを繰り広げる中、ここで私がチョイスした曲は、

 

「バーモント・キッス」 

 

ご存じない方も多いだろう。相対性理論というグループが作ったこの曲は、優し気な音に合わせて、理想や大志をあきらめてしまったような歌詞が歌われる、どこか退廃的な雰囲気が印象的な名曲である。

ワンフレーズを繰り返すだけなのに、ものすごく心にクるものがある。

歌った後ものすごくしんみりするので、普段なら歌わない曲なのだが、喉も頭も疲れていた私はこの曲をチョイスしてしまった。

 

これが失敗だった。

 

ワンフレーズの繰り返し、しっとりした曲調、小難しくない歌詞、これらは今の我々に刺さりに刺さった。主に子守歌として。

私は眠気を覚ますために体を揺らしながら歌っていたのだが、それすらゆりかごか、もしくは催眠術の技法のごとく睡眠にいざなうためのものでしかなくなった。

面々が自分の歌声に目に見えて眠くなっていく様は、自らも眠くなっている点を除けば愉快の一言であった。

ザトウくん「今、思考を現実以外にもっていったら落ちる

 

皆でカラオケを楽しもうという企画の中、皆を眠らせてしまうこのチョイスは明らかに失敗である。しかし、眠気によって倫理観が狂っている私にその判断はできなかった。

 

私は極限状態の中、ある一つのゲームを生み出した。

 

「俺の歌でこいつら寝かしつけよう」

 

そこからの私の行動は迅速であった。眠くなりそうなバラード系、その中でも子守歌に限りなく近いものをチョイスした。

「今から眠くなる曲歌いまくるわ」

私の宣言に真っ先に反応したのは富士くんだった。

私の作戦を妨害すべく、元気系POPをチョイス。続くザトウ君、ユワ君も同様に目の冴える曲目をチョイスした。

ヤバTやアイドルソングで私の作戦を抑えにかかった。

 

しかしこれがダメ。眼が冴える曲はカロリーを使う。カロリーの低下が眠気を招くのは雪山で遭難した場合の常識である。

最終的に私以外の皆が就寝。空のグラスと死屍累々の中、一人歌う「トリノコシティ」は状況に最高にマッチしていた。

勝利のコーンポタージュをいただきつつ、時計を見る。

 

早朝四時四十五分

 

時間だ・・・

 

全員をたたき起こす。富士くんが起きてきたので、「思いっきり集まれパーティーピーポーとか歌って起こそうか」と提案するも、「俺が嫌」と却下されてしまった。

 

全員を起こして解散。これにて徹夜カラオケは終了である。

 

コミケに続く人生二度目の始発電車に乗り込み、おそらく眠ったら終点まで起きない身体に鞭打って帰宅。朝七時にお布団に入り、起床したら午後四時半だった

 

ただ起きているだけでこれだけ体にガタが来るとは思わなかった。ヘドバンのせいで首が痛いし、ボウリングのせいで手首痛いし、キッキングマシンのせいで足首が痛い。

おおよそ首とつく体組織が乳首以外全部痛い。

 

その後首の痛みは三日はひかなかった。