竹内大納言ターボα
こと人間はインパクトのある出来事を忘れられないもので、例えば初めてキスをした瞬間というのはその前後を含めていくつになっても詳細に思い出せるものであるらしい。
記憶に残る名勝負や、一大事件なんかは記憶に刻まれているものだろう。かくいう私も、震災にあった時の状況は明確に思い出せる。
ほかにも、友人たちの間で何度も話題に上がることなんかも、ずっと覚えているものだろう。いつもスカしてるあいつの失敗談なんかは、それを口に出す誰もが「忘れてやるものか」なんて思ってるに違いない。
しかし、ごくまれに、別になんてことのない事柄を、完璧に覚えてしまっていることがある。別に重大な何かがあったわけではないし、何回も話題に出ているようなことでもない。それでもなぜか頭のよくわからない領域に鎮座していて、ふとした時に出てくる謎の事柄。
今回は、私にとってのそれ、すなわち「竹内大納言ターボα」の話をしたい。
エンタの神様という番組をご存知だろうか。
数年前、土曜の夜にやっていたお笑い番組である。当時はめちゃイケと並ぶ小学生の必須科目であり、月曜日の学校でこの話をするのが小学校時代の日課だった。私も眠い目を擦ってリアルタイム視聴を心掛けたものである。
今でこそ、エンタ芸人はつまらないというのが定説になりつつあるが、小学生だった私たちにとって、そのどれもが新鮮で、爆笑しながら見ていたのを覚えている。
そんなある日、エンタの神様に突然現れた芸人こそが「竹内大納言ターボα」である。
平安貴族を思わせる重そうな着物と、白塗りの顔に烏帽子をかぶったその男が言ったことを、私は一言一句完璧に覚えている。
書き起こすとこうだ。
「誰じゃ!竹内大納言ターボαって、一発屋のにおいがする~とかのたまったのは!
でも、苦しゅうない苦しゅうない!
なぜなら、わらわはもう一発あてる力もない!
なんならテレビに出るのはこれが最後じゃ!
はっはっは
余は満足なり~~~~!!!!」
以上である。
ちなみにここには書いてないが、これの前にもう一個ネタをやっている。「ターボαという名前には何の意味もない。学校へ行こうMAXのMAXみたいなものじゃ。余は満足なり~~~!」
この二つのネタをやったところで、この男の出番は終わった。ちなみにこの男は本当にその後エンタに現れることはなかったし、ほかの番組でも見ることはなかった。
ただ一度だけ、コロコロの吉本芸人のページの集合写真に、その存在を確認したのが、私が覚えている限りで唯一のメディア露出だった。
当時そこそこ人気番組だったエンタで、なぜ芸名いじりと自虐ネタというチョイスをしてしまったのか。テレビに出ない宣言をしてしまったのか。というかまず何者だったんだあいつは。
つまらない芸人もそこそこいた気がするし、一度しか出なかった芸人も相当いたはずだが、あまりにも謎めいていたせいで記憶に残っているのかもしれない。
せっかくなので、今、彼が何をしているのか調べてみた。
高校で社会の教師をしているらしい。
なんということだ。どこまで謎めいているんだ。竹内大納言ターボα